先日、日経新聞で「東京の月給38万円、ニューヨークの半分 都市調査で賃上げ遅れ鮮明」という記事のアーカイブを目にしました。単純にニューヨークは良くて東京は悪い、という話ではなく、このように差が開くには複数の要因があります。今回は、なぜこの差が生まれるのかを分析し、整理してまとめてみたいと思います。
東京の月給38万円、ニューヨークの半分 都市調査で賃上げ遅れ鮮明 – 日本経済新聞【ロンドン=井田正利】ドイツ銀行リサーチ・インスティチュートがまとめた2025年の主要都市における価格調査で、東京の平均月www.nikkei.com
大前提として為替の影響がある

まず押さえておくべきなのは、為替の影響です。
東京の給与は円建て、ニューヨークの給与はドル建てで支払われています。
円安が進むと、ドル換算で見た東京の給料は相対的に低く見えます。
そのため、単純に数字だけを比較して「半分」と表現すると、実態よりも差が大きく見えてしまう場合があります。
企業の利益差が、そのまま給与の差になっているわけではない

東京とニューヨークの給与差を見ると、
「日本企業は利益が出ていないから給料が低いのではないか」
という疑問が浮かびがちです。
しかし、実際には企業の利益水準そのものが、直接給与の差を生んでいるわけではありません。
日本企業の中にも、安定して高い利益を出している企業は数多く存在します。
それでも給与水準が米国企業ほど高くならないのは、利益の多くが給与以外の形で分配されてきたためです。
見るべきは「付加価値の分配」

付加価値とは、売上から材料費や外注費などの外部コストを差し引いた、
企業が内部で生み出した富のことです。
企業はこの付加価値を、主に次のように分配しています。
- 給料・福利厚生などの人件費
- 株主への配当や自社株買い
- 内部留保や設備投資
- 税金・社会保険
東京とニューヨークの差は、利益の額そのものではなく、付加価値の分配の仕方の違いにあると考えられます。
ボーナスも給料差の要因
日本企業は、基本給を控えめに設定する一方で、年2回のボーナスを支給するケースが多く見られます。
近年は業績連動型が増え、固定給に比べて変動要素が強まっています。
一方、アメリカ企業は基本給が高めですが、賞与は個人評価や業績連動型で、必ず支給されるものではありません。
ボーナスを含めた総報酬で見ると、年収差は月給だけで比べるより小さくなる場合もあります。
株主還元・福利厚生・生産性の違い

ニューヨーク
- 株主還元:配当・自社株買いを重視
- 福利厚生:医療・年金などは個人負担が大きい
- 生産性:高給だが、個人がリスクを負う
東京
- 株主還元:内部留保を重視
- 福利厚生:社会保険や退職金など企業負担が大きい
- 生産性:安定を優先する分、効率を犠牲にする面もある
日本企業は「雇用と社会保障」を背負ってきた
日本企業は、終身雇用や年功序列を通じて、安定した働き方を提供してきました。
医療や年金といった社会保障の一部も、企業が負担してきた側面があります。
その結果、現金給与の伸びは抑えられてきました。
つまり、日本の給料が低く見えるのは、現金だけでなく、安定や保障も含めた報酬だったと言えます。
最近の変化:賃上げ圧力と株主還元圧力
近年、この構造にも変化が生じています。
労働力不足や物価上昇により、企業は賃上げを迫られています。
同時に、高齢層の固定費を抑えるため、40歳以上を対象とした早期退職制度も増えています。
また、内部留保を重視してきた日本企業も、配当や自社株買いを増やし、
資本効率(ROE)を意識した経営へと舵を切り始めています。
賃金が低い国なのか、安定を買っていた国なのか
アメリカは高給ですが、生活のリスクは個人が負います。
日本は給料は控えめでも、企業が安定や保障を提供してきました。
給与差を理解するには、固定給・ボーナス・福利厚生・社会保障を含めた
総報酬で見る視点が欠かせません。
このモデルは今も続くのか?
従来の「給料は控えめでも安定重視」というモデルは、
賃上げ圧力、株主還元圧力、為替の影響によって転換点を迎えています。
東京の給与がニューヨークの半分という構造も、
今後は徐々に見直されていく可能性があります。
まとめ

東京の給料がニューヨークの半分ほどに見えるのは、
日本企業の利益が少ないからではありません。
利益の分配の仕方が大きく異なることが、主な要因です。
日本企業は、現金給与を抑える代わりに、雇用の安定や社会保障、ボーナスを通じて社員に還元してきました。
しかし現在、そのモデルは賃上げ圧力や株主還元圧力の中で見直されつつあります。
給与差は単なる数字の比較ではなく、
企業の利益配分と総報酬の構造を理解することで、初めて正しく見えてくるのです。
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