先日、アメリカがベネズエラに対して大規模な軍事攻撃を行ったというニュースが報じられました。この出来事を受け、悲しみや憤りを覚える人がいる一方で、「遠い国の出来事」「他山の石」として受け止める人も少なくないかもしれません。
立場が変われば、このニュースの捉え方も大きく異なります。例えば、商社の実務に携わる人間であれば「これはすでに織り込み済みのカントリーリスクだ」と冷静に整理するでしょうし、投資家であれば「地政学リスクがどこまで波及し、市場にどう影響するか」を即座に考えるはずです。
では、日本にとってこの出来事は本当に「無関係」なのでしょうか。そもそも日本とベネズエラの間には、どのようなビジネス関係があり、過去にどの程度の経済的な結びつきがあったのでしょうか。そして今回の軍事行動は、日本企業や日本経済にどれほどの影響を与える可能性があるのでしょうか。
本記事では、なかなか知る機会のない日本とベネズエラのビジネス関係を整理したうえで、今回の攻撃が日本に与える影響を冷静に検討していきたいと思います。
ベネズエラ大規模攻撃 狙いは石油利権か 次期政権にも注目集まる(テレビ朝日系(ANN)) – Yahoo!ニュース 3日未明、アメリカのトランプ政権が南米ベネズエラに大規模な軍事攻撃を行った。マドゥロ大統領の身柄を拘束し、ベネズエラ政府news.yahoo.co.jp
1. エネルギー分野での協力

石油と中南米戦略
ベネズエラは世界でも有数の原油埋蔵量を持つ資源国です。
1970〜2000年代にかけて、日本は中東依存を下げるエネルギー多角化の一環として、ベネズエラとの関係を強化してきました。
2007年の大型契約
2007年には、丸紅および三井物産が、ベネズエラ国営石油会社PDVSAと総額約35億ドル規模の石油供給契約を締結しました。
これは、日本が南米のエネルギー市場に本格的に関与した象徴的な事例とされています。
この契約の狙いは、PDVSAからの原油供給を長期的に確保し、日本の中東依存度を引き下げることにありました。
ガス・LNGプロジェクト
その後も、日本とベネズエラの間ではLNG(液化天然ガス)分野での協議が行われ、三菱商事や伊藤忠商事などが初期検討に参加した例があります。
石油資産の売却
一方で、経済危機や制裁強化の影響を受け、INPEXなどの日本企業は、ベネズエラにおける石油・ガス資産を現地企業へ売却しました。
エネルギー分野における日本企業の関与は、次第に後退していきました。
2. 輸出・インフラ・資機材分野

エネルギー分野以外でも、日本はインフラ分野で一定の関与を行ってきました。
国際協力銀行(JBIC)は、ベネズエラの鉄道建設プロジェクト向けに**輸出ローン(買い手信用)**を提供し、丸紅を中心としたコンソーシアムによる日本製資機材の輸出を支援しました。
石油に限らず、鉄道や機械といった日本の強みを生かしたビジネスも展開されていたのです。
3. 日本企業の現地活動

トヨタの販売ネットワーク
トヨタ自動車は、販売代理店などを通じて、ベネズエラで自動車および部品ビジネスを展開してきました。
政情不安が続く中でも、従業員や家族の安全を最優先しつつ、限定的な事業継続を行っていたと報じられています。
総合商社のスタンス
三菱商事、三井物産、伊藤忠商事、丸紅といった総合商社は、資源・貿易・物流など多角的な関与を模索してきましたが、
駐在員派遣や現地拠点設置の有無には差があり、リスクに応じて関与の度合いを調整してきました。
4. 近年の新しい動き

近年では、JETROの支援などを背景に、日本食レストランやサービス産業といった分野での進出も報告されています。
これは、従来の資源・インフラ中心の関係とは異なる、「消費」や「文化」を軸にした新しいアプローチといえます。
5. 課題と今後の展望、そして今回の攻撃が日本に与える意味
政治・経済不安がもたらした現実
ベネズエラの政情不安と経済混乱は、日本企業にとって常に大きなリスクでした。制裁の強化により、金融、保険、決済、物流が機能しなくなり、日本企業は抗議や声明を出すことなく、静かに撤退・縮小していきました。
そこにあったのは、価値判断ではなく、事業が成立するかどうかという現実的な判断でした。
今回の軍事行動と日本への影響
今回のアメリカによる軍事行動が、日本に短期的な直接被害をもたらす可能性は低いと考えられます。日本の原油輸入に占めるベネズエラの比率は小さく、現地事業もすでに限定的だからです。
しかし、中長期的な意味は決して小さくありません。
- 「犯罪国家」や「麻薬対策」といった名目のもとで
国家元首の拘束や軍事行動が実際に行われたこと - 制裁と軍事行動が一体で運用される前例が示されたこと
- 企業が国家間対立の外側にいられない現実が改めて明確になったこと
日本企業がベネズエラで経験した「静かな撤退」は、
将来、より大きな市場――中国や台湾を巡る局面で、さらに重い判断として突きつけられる可能性があります。
まとめ

日本とベネズエラのビジネス関係は、規模こそ限定的でしたが、
資源、インフラ、消費分野にまたがる現実的な関係でした。
今回の軍事行動は、日本に直接的な衝撃を与えるものではありません。
しかし、それは日本が無関係でいられることを意味するわけではありません。
ベネズエラで起きていることは、
日本が将来、経済と安全保障の狭間で迫られる判断の予行演習ともいえます。
この出来事をどのように受け止めるのかは、
台湾有事を含む今後の国際環境の中で、日本がどの立場に立つのかを考える重要な試金石となるでしょう。
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