これまで2回にわたり旧村上ファンドによるフジテレビ株TOBについて触れてきましたが、今回はそもそも「旧村上ファンド」と「村上ファンド」とは何なのか、という点を噛み砕いていきたいと思います。

フジHD株「TOBでの追加取得」想定と通知 1株4000円、旧村上ファンド側が説明(産経新聞) – Yahoo!ニュースフジ・メディア・ホールディングス(FMH)は24日、旧村上ファンドを率いていた村上世彰氏の長女、野村絢氏らが検討するFMHnews.yahoo.co.jp
そもそも旧村上ファンドとは?

旧村上ファンドとは、2000年代前半の日本株式市場で強烈な存在感を放った投資ファンドの通称です。
正式には「MAC(エムエーシー)アセットマネジメント」。創業者は村上世彰氏です。
当時の日本企業は、
- 株を持ち合う「安定株主」が多い
- 株主は経営に口出ししない
- 企業は内部留保を溜め込みがち
という状況でした。
そこに登場したのが旧村上ファンドです。
旧村上ファンドは何をしたのか
旧村上ファンドの行動は、今でいう**アクティビスト(物言う株主)**そのものでした。
特徴①:大企業の株を大量に取得
フジテレビ、阪神電鉄、ニッポン放送など、
知名度が高く、資産価値の大きい企業を狙いました。
特徴②:経営陣に公然と要求
株を買った後、
- 配当を増やせ
- 自社株買いをせよ
- 余剰資産を活用せよ
と、記者会見や書面で堂々と主張しました。
特徴③:思想は一貫して「株主第一」
村上氏の考え方は非常に明確でした。
「会社は株主のもの。経営者は株主の代理人にすぎない」
今では当たり前に聞こえるこの考え方が、当時は日本社会に強い違和感を与えました。
なぜ「旧」と呼ばれるのか
2006年、村上世彰氏は
ニッポン放送株を巡るインサイダー取引事件で有罪判決を受け、
旧村上ファンドは事実上、解散します。
このため、
- 2000年代に活動していた村上氏本人のファンド
を指して、現在では**「旧村上ファンド」**と呼ばれています。
では「村上ファンド」とは何か?

一方、最近の報道で使われる「村上ファンド」は、厳密には旧村上ファンドそのものではありません。
現在、名前が挙がるのは、
- 村上世彰氏の長女
- 元側近
- 関連投資会社
などが関与する、いわゆる**「村上系ファンド」**です。
法的にも組織的にも別物ですが、投資思想は明確に引き継がれているため、メディアでは便宜的に「村上ファンド」と呼ばれています。
共通点:何が引き継がれているのか
旧村上ファンドと現在の村上系ファンドには、明確な共通点があります。
- 株主価値を重視する
- 日本企業の資本効率の低さに着目
- 配当・自社株買いなどの株主還元を求める
つまり、「企業価値はもっと引き出せるはずだ」という視点は、今も変わっていません。
そもそも株主第一主義という考えは正しいのか?

株主第一主義は、資本主義の原理から見れば、ある意味で正しい考え方かもしれません。リスクを取って資本を提供している以上、株主価値を重視するのは当然とも言えます。一方で、企業が事業を回し、株主に還元できているのは、知恵や労働力、時間を提供する従業員がいてこそ成り立っています。その意味で、従業員を大切にするという視点も欠かせないと考えます。
日本企業はこれまで、終身雇用や手厚い福利厚生を通じて、制度的には従業員を大切にしてきたつもりでした。しかし経営環境が厳しくなると、年齢など一律の条件による早期退職制度が導入されるケースが目立ちます。そこには、従業員を最終的にはコストとして捉えてきた本音が表れているようにも感じられます。
経営層、特に役員クラスになると、人を個人ではなく集団や数字で見ざるを得ない構造があるのも事実でしょう。だからこそ、「守るか切るか」という二択ではなく、安定的な雇用を支えるビジネスモデルや意思決定、人を活かす経営が重要になります。甘やかすこととは異なり、株主価値と従業員価値を中長期で両立させる視点が、今こそ求められているのではないでしょうか。
まとめ

旧村上ファンド、そして現在の村上系ファンドは、日本企業が長く避けてきた「株主と企業の関係」を正面から問い直した存在でした。株主価値を重視し、資本効率の低さを是正せよという主張は、当時は強い反発を招きましたが、今では市場の常識になりつつあります。
一方で、株主第一主義を突き詰めるだけでは、企業価値は持続しません。企業が事業を回し、成長してきた背景には、知恵や労働力、時間を提供してきた従業員の存在があります。日本企業は終身雇用や福利厚生を通じて人を大切にしてきたつもりでしたが、環境が変わった途端に早期退職という形で矛盾が表面化しました。
これから問われるのは、株主か従業員かという二項対立ではありません。株主価値を意識しつつも、人をコストではなく価値の源泉として捉え、能力開発や市場価値の向上につなげていく経営ができるかどうかです。旧村上ファンドを巡る一連の動きは、日本企業がそのバランスを本気で考える段階に入ったことを示しているのかもしれません。
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